ここでは、「サーチファンド」という手法について、丁寧に解説致します。

日本国内では、様々な「サーチファンド」の形式が解説・紹介されていますが、当社ICJでは、米国や欧州でのスタンダードな手法として広く採用されている手法を、そのまま「サーチファンド」手法として、概略とメリットを中心に解説します。

■はじめに

  • サーチファンドとはなにか
  • 主な登場人物

■この手法の一連の流れ

  1. 10人前後の投資家を説得し、活動費を収集
  2. 買収にふさわしい中小企業を探索
  3. 買収したい企業のオーナーを説得
  4. 初期投資家へ買収資金を依頼
  5. 不足する資金を新規投資家から募集
  6. 降りる投資家は750万円を受領
  7. 投資家資金+LBOローンで買収実行
  8. サーチャー本人が買収企業を経営

■一連の流れを「サーチャーのメリット」「投資家のメリット」で見てみると

  • 10人の投資家からお金集めをするメリット
  • 企業探索~買収完了までの流れにあるメリット
  • サーチャーが経営者になってからのメリット

■記事内容に関する裏付け

はじめに

サーチファンドとはなにか

「サーチファンド」とは、主に中小企業を事業承継によって買収し、成長させ、収益を挙げる、米国スタンフォード-MBA、スペインIESE-MBAを世界の2大拠点とし、
急速に全世界に浸透しつつある手法を指します。

主な登場人物

この手法には、活動の主人公となる「サーチャー」と呼ばれる存在と、このサーチャーに対して資金を提供する「投資家」という存在が登場します。

サーチャーにとってこの手法は、元手となる資金がなくても、投資家の巻き込みと、根気強い買収企業探索と、買収時の説得と、経営者としての切磋琢磨があれば、数年という短期間で経営者として大いに鍛えられつつ、ある程度まとまった現金・財産を手に入れることができ、欧米の有力MBA卒業生にとっても、最も魅力ある仕事として人気を集めています。

一方、この手法は、投資家たちにとっても、「投資する相手をじっくり見極めることができる」「すでにお客さんや製品が存在し、潤沢なキャッシュ・フローのある企業が買収対象」「銀行も、スタートアップと違って、Debtによる資金を提供してくれやすい」など、安定的に高い水準のリターンが出せる投資対象として、脚光を浴びています。

 

この手法の一連の流れ

①10人前後の投資家を説得し、活動費を収集

イメージ画像

まず、自ら資金を集めて企業を探し、買収した後はその企業の経営者として手腕を発揮し、最終的に売却するか継続経営する。このようなキャリアを歩む主人公を「サーチャー」と呼びます。

サーチャーは、「サーチファンド」と呼ばれる、資金調達や企業買収のための合同会社を設立します。

そして約10人の投資家から、それぞれ500万円ずつ、合計約5000万円を集め、企業を探すための2年間の活動資金とします。

②買収にふさわしい中小企業を探索

イメージ画像

サーチャー本人は、あらゆるつてを頼りに、自分が買収する中小企業を探し回ります。注目する業界の企業をWebで調べて片っ端から電話や手紙を送ったり、M&A仲介業者に依頼して買収候補をリストアップしてもらったりと、あらゆる手段を使います。有望な企業を見つけては調べたり、実際に面談に出向いたりしながら、買収したいと思える企業を探し続けます。

③買収したい企業のオーナーを説得

イメージ画像

こうして買いたい企業を見つけたら、サーチャー本人はその中小企業のオーナーに会い、熱意を込めて事業承継をお願いし、説得します。そして最後に、「この条件を満たせば会社を売ってもいい」という口約束ベースの書類(LOI=Letter of Intent)を取り付けます。

※LOI(Letter of Intent):買収や投資などの取引において、当事者間で基本的な合意事項を文書化したものです。法的拘束力は通常ありませんが、取引の意向や主要条件を明示します。

④初期投資家へ買収資金を依頼

イメージ画像

買収する中小企業が決まったら、サーチャー本人は、これまで活動資金を出してくれた投資家たちのもとへ行き、「この買収の資金を出してください」と依頼します。買収金額は案件によってさまざまですが、標準的には3〜5億円ほど。10人の投資家で分けると、1人あたり3000万〜5000万円の追加出資が必要になります。

このとき、投資家の1〜3割は、案件に納得できなかったり、サーチャーを信頼しきれなかったりして、追加出資に応じないこともあります。

⑤不足する資金を新規投資家から募集

イメージ画像

追加出資に応じない投資家がいた場合、その不足分を埋めるために、サーチャー本人は新たな投資家を募ります。

⑥降りる投資家は750万円を受領

イメージ画像

新たな投資家が揃った後、今回の出資に参加しない初期投資家は、自分が出していた500万円分の権利を、新規投資家の出資によって750万円として回収できます。初期投資だけで離脱する場合でも、この仕組みによってリターンが得られます。

⑦投資家資金+LBOローンで買収実行

イメージ画像

こうして投資家から約5億円を集めると、同額程度の約5億円を地方銀行などがLBO(Leveraged Buyout)ローンという形で貸し付けてくれます。

つまり、「投資家からの5億円」+「銀行からのLBOローン5億円」で、サーチャー本人は合計約10億円の買収資金を調達し、先ほどの中小企業を買収します。

※LBO(Leveraged Buyout)ローン:買収対象企業の資産や将来のキャッシュフローを担保として、金融機関から借り入れる資金のことです。自己資金を抑えつつ、企業買収を行う際に用いられます。

⑧サーチャー本人が買収企業を経営

イメージ画像

こうして中小企業を10億円で買収すると、その経営者にはサーチャー本人が就任します。このとき、新会社の権利の約25%は、現金を支払うことなくサーチャー本人に与えられます。その権限は他の投資家よりも大きく、自分の判断でほとんどの経営決定ができるため、自由に手腕を発揮できます。

たとえば、日本の伝統的な漆器を作る企業を買収した場合、周囲が「時期尚早」と言っても、本人に勝算があれば「今年から海外展開します」といった思い切った判断も、自分の責任で実行できます。

サーチャーはこのようにして企業を平均で約5年間経営し、その後、第三者に売却して大きな利益を得ます。

欧米の例では、買収時に10億円だった企業が、5年以内に20億円以上の価値となって売却されるケースが多く見られます。するとサーチャー本人の取り分(約25%)は約5億円となり、そのまま手元に入ります。

一連の流れを「サーチャーのメリット」「投資家のメリット」で見てみると

この「サーチファンド」の流れを、「サーチャー本人のメリット」と「投資家のメリット」という視点で振り返ると、その魅力や優れた点がよくわかります。以下、少しお付き合いください。

10人の投資家からお金集めをするメリット

イメージ画像

サーチャー本人は、資金調達の段階では、今の仕事を辞めずに進めることができます。多くの投資家候補と会い話す中で、自分がこのサーチファンドに本当に情熱を持てるか、向いているかを見極めることができます。また、投資家は自分に合う人や好みの人を選べばよく、無理に相性の悪い相手と組む必要もありません。

では、投資家側のメリットはどうでしょう。サーチャーが出資を依頼してきた際、とりあえず面談や議論をしたうえで、「10人全員が揃ったら出資するよ」と伝えるだけでも構いません。そして実際に10人の投資家を集められるかどうかを見ればいいのです。

この「10人を集める」というハードルを超えることは、サーチャーに一定の説得力や人間的魅力がある証拠とも言えます。そう考えれば、このプロセスを通過した人物に500万円を投資するのは、かなり堅実な判断と言えるでしょう。

企業探索~買収完了までの流れにあるメリット

イメージ画像
イメージ画像
イメージ画像
イメージ画像

この最大2年間の買収先探しのプロセスで、サーチャー本人は多くのメリットを得ます。投資家が10人いるため、特定の投資家の好みに左右されず、さまざまな業界や企業を幅広く見て回ることができます。たとえ「関西だけにしてほしい」「町工場を中心に」といった声があっても、それらを参考にしつつ、自由に動くことができます。

一方、投資家側にとっては、この2年間でサーチャーの仕事ぶりをじっくり観察できる点が大きなメリットです。「買収後に経営者として成功しそうか」「自分たちと相性がよさそうか」といった点を、かなり確実に見極めることができます。

こうして、双方が納得したうえで「買収のために出資するか」「ここで手を引くか」を判断できるのは、この手法の大きな強みです。ICJとして多くのスタートアップ創業者に投資してきた中でも、このサーチファンドのような、じっくりと進む相互確認プロセスは、とても魅力的に感じます。

サーチャーが経営者になってからのメリット

イメージ画像

買収が完了し、サーチャーが経営者に就任した後は、サーチャーにとって計り知れないメリットがあります。簡単に言えば、「自分のお金を使わずに企業の経営権を握り、自由に意思決定ができ、成果に応じた大きなリターンを得られる」という、まさに究極のアントレプレナーシップを体現できる環境です。

詳細な仕組みはここでは省略しますが、買収後のサーチャーは、重要な経営判断をほぼ一存で行えるよう守られており、創業者のように大胆に経営できます。仮に業績が振るわなくても、投資家から解任されるような心配は基本的にありません。

一方、投資家にとっての最大のメリットは、この状況下でサーチャーが全力で経営に没頭し、本気でコミットしてくれることです。ICJとしても、これまでのベンチャー投資の経験から、この点を非常に高く評価しています。これほど条件が揃えば、サーチャーのポテンシャルが最大限に発揮され、高い成果が期待できると同時に、他のどんな環境よりも早く、確実に経営者として成長していくと信じています。

この内容はバルセロナでの専門家たちとの議論をベースにしています

イメージ画像

以上の「サーチファンド」という手法の仕組みと凄さについては、2024年10月に、バルセロナの世界的な経営大学院であり、サーチファンドの総本山ともいうべきIESEに於いて開催された、第六回を迎えたサーチファンドの世界カンファレンス期間中に、ICJのGeneralPartnerである吉沢康弘と、三菱UFJ信託銀行の佐藤氏の2名で、多くの専門家と議論を行い、詳細を確認、記事化した内容となります。

特に、IESEのJAN SIMON教授は、SEARCH FUNDS & ENTREPRENEURIAL ACQUISITIONSの著者であり、世界的なサーチファンドの権威。
▼書籍はこちら

jansimonbook1

そのSIMON教授との議論では、特にこのサーチファンド手法が持つ「サーチャーとして活躍する人物のアントレプレナーシップを最大限に引き出す、芸術とも言える仕組み」について、熱意の籠もった話が続きました。

すでに、この手法をベースとして、サーチャーになるというキャリアは、欧米のトップMBAスクールでは、MBA卒業後、最も人気のある職業・仕事に躍り出ており、その魅力はとどまることを知りません。


では、なぜこのような優れた仕組みの「サーチファンド」が、これまで日本国内では育っていなかったのか。
そして、その潮目となる法律改正が、2024年に行われ、国内でのサーチファンド環境は、激変しつつあります。

▼次のコンテンツは
法改正によるサーチファンド急進の機運