数多く出版される思考法の書籍や、戦略に関する書籍。そんな中、ここ数年で最もインパクトの大きい一冊と言えるのが、「イシューからはじめよ」ではないでしょうか。

 

その著者である安宅和人さんが書籍を書くキッカケとなったのが、「ニューロサイエンスとマーケティングの間」というブログ。このブログの中で、元々米国で脳神経科学の研究者としての経験を重ねてきた同氏が、どのように科学研究に取り組むべきか、どういう考え方を、日本の研究者にとって欲しいか、という想いをブログにまとめたところ、大反響があり、その反響を基に出版されたのが、同書です。

 

ところが、このブログ、よくよく読み込んで見ると、「イシューからはじめよ」では語られていない、安宅さんの別の情熱、こだわり、信念といったものが、沸き立っています。

 

そこで本記事では、安宅さんとの対談を通して、「イシューからはじめよ」では語られていない安宅さんの思考の世界について、特に「仕事と人生」という軸でのお話を紹介させていただきます。

 

本記事のアウトラインです(読了5分)

■仕事への良い没頭の仕方と、悪い没頭の仕方

■仕事選びの軸と人生の軸と

■直観とロジックの程よい関係

■仕事で限界を超えること、仕事とプライベートとの関係のこと

■安宅さんが内で秘めていること、まだ世の中に発せられていないこと

それでは、本編です。

仕事への良い没頭の仕方と、悪い没頭の仕方

まず対談は、今回こちらから持ち込んだ「仕事の強みの磨き方」という書籍から始まりました(文中の聞き手は、著者の吉沢です)。

 

安宅:これ、面白い本ですよね。編集パワーも凄いけど、目次見ておもしろいなぁと思ったんですよね。だから、今回の対談をお受けしたんです。別に知人である岩瀬さんや枡野さんが載ってたからじゃないです(笑) 純粋に面白そうだと思いまして。

 

吉沢:ちなみにどの辺りが…

 

安宅:わりと人間の肌感で感じているのが、実は強みなのである、という感じじゃないですか。

素朴な、ある意味どうでもいいようなことが実はいい感じで大事であるという。でも、その通りなんで。要は『自分の味を活かして、ちゃんとあれ』と言う感じが本から見えてくるわけですよ。そこが面白いなと。

抽象化すればするほどどうでも良くなるというか、よほど太いこと言わないと「こいつ分かってないよなぁ」みたいになっちゃうんですよね。だから、過度の抽象化を行わなかったということが、素晴らしいなぁと思います。

 

吉沢:ありがとうございます。そういう意味では、敢えて抽象化している部分、共通項という部分で行きますと(笑)、「目の前の仕事に没頭して、最初の出身会社でしっかり自分の強みを磨いている」という点がまずスタートラインなのではないかと思うのですが、どうでしょう?

 

安宅:まぁそうでしょうね。でも、そもそも良い場がないと育たないですよね。環境として厳しくて、そして成長視点でペイする空間がないと、ダメなんだと思います。学びのスピードが同じ人でも、その空間次第で5倍くらいは学びのスピードが変わってしまうという感覚ですね。

この本で紹介されているような、ボスコンでも、P&Gでも、スターバックスでも…それなりに厚みのある教育可能な空間っていうのが、多分あってですね。

 

安宅:歴史のある企業で、本気で学ぶ気があれば吸収できると思います。でもそれも、0から自分が会社を作り直すんだくらいの感覚で見ないと、特に大手町にあるような大企業だと、僕は学びにくいだろうなぁと思いますね。全体は見えないじゃないですか。やってることの価値もはじめはよくわからないし、巨大すぎるんですよね。システムが。

 

吉沢:逆に、その「巨大なシステム」としての組織を、若いうちから俯瞰するような一歩引いた立場で捉えてしまうと、批判的になったり、悪い意味での割り切りが出たりして、目の前の仕事への没頭具合が足りなくなってしまう気がします。

 

安宅:ダメですねぇ。批判してる暇あったら、やんなきゃいけないですね(笑)。批判してもいいけど…。

ちょっと話がずれますけど、僕が前職のマッキンゼーに入社して最初の週に大前研一さんとのランチがあって、大前さんが『文句は言う。ただ、言った奴が直すんだ。それがマッキンゼーのルールだ。壁もなきゃ天井もない』といわれたのが、僕の人生の重要な指針の1つになっていて。

文句はいうけど、ちゃんとやると。やる気がないなら文句言う資格はないということなんですけどね。問題はあるんだけど、それを解決することが成長なんだということなんだと思っていますが。だからただ文句だけを言っているやつを見ていると、ダメだなぁと思いますね。場の話からズレますが、言っていいけど、言ったらお前それを直せよと。

 

吉沢:文句を言いたくなる対象が、全社的な人事制度だったりと、新人のときに自分ではどうしようもないぞ・・・と感じてしまうサイズの課題だったときには、どう取り組んだらいいですかね?

 

安宅:自分の仕事を、勝手に「狭い」と感じてしまうから解けないことが多いんだと思います、実際には。

たまたま昨日、僕の知り合いの若い女性で、春にあるメーカーに入った子の人生相談を30分位受けたんですけどね、大学生の頃から色々知っている子で、「超絶つまんない事をひたすらやっている」と言うんですよ(笑)。

彼女いわく、どう考えても自動化すればいいようなことをやっていて、超どうでもいい非効率なことをいっぱいやっていると。

「おかしいと思っているんだけど、どうすればいいんですかね?」と聞かれましたが、『いやいや、おかしいと思ってるならそれ直してやったほうがいいんだよ』と返しました。

自分一人で出来るんだったらやればいいし、IT系の人が必要だったらそいつらを巻き込んで。『それやるのが、君の仕事でしょ』と。

それを言ったらなんか目がさめたように帰って行きましたね。

 

吉沢:それでいうと、実家にあった狭いトイレを思い出します。前のところにガムを流してなんかやると詰まるので、やらないで下さいという日本語しか書いてないんですよ。『この空間に、もし仮に一年間僕が閉じ込められたら、食事だけ出されたら、僕はどの位学べるだろうか?』ということを結構ちっちゃい頃考えていて。トイレで過ごす時間って、長いじゃないですか(笑)。そういうときに、ちょっとした「流さないでください」という文字をきっかけに、様々な思考をしていくと、相当色んなことを考え、色んなことを学べるなと。

だから、トイレに篭っても何でも学べるなら、目の前の仕事ってある種何でもいいと感じたりします。

 

安宅:まぁなんでもいいと思います(笑)。ただ、『没頭してるだけじゃダメ』だと思います。本質的にアウトオブボックス、つまり既存の枠を超えるバリューの出し方をしていくことを考えないと、すぐに文句言う野郎になっちゃうと思うんですよ。

自分の今の仕事をいらないようにするのも仕事であると。そうやって進化してきたんだよ人間って。でもそれに没頭すると、その不毛な業務に生命をかけちゃうんですよね。それで終わりじゃないですか。進化もないしですし。

 

吉沢:何に取り組むべきか?という点で言えば、「ほぼ日」での安宅さんと糸井重里さんの対談記事の中で、マッキンゼーの大石さんが、イシューをどこに置いて、どのくらいのイシューにフォーカスさせるべきかの気づきを与えてくれたと触れられていましたよね。

こういうふうに、何に取り組むべきなのか、それを示してくれる存在が居ると、有り難いですね。

 

安宅:そうですね。枠を壊してくれる人がいないと、最初はバリュー出ないんじゃないんですかね。バリューが出ないと成長しないんですよね。結局人間って、失敗だけからでは学べないんですよね。本当の成功体験がないと。失敗ってこれがダメだて言うことしか教えてくれないんで。軸が立たない。本質的にバリューを出した瞬間がないと困る。それって大体が、言われたことをただやっているところにはないわけです。

その仕事の仕方はバリューを出していると認めてくれたり、こういうところまでやったら、バリューを出しているといえるよねと、基準が見えたりとか。教えてくれなくても、投げ込んでくれるとか。そういう人がいないと、最初コケるかもしれないですね。最初コケ続けると、成功体験をするまでは苦しむでしょうね。

 

仕事選びの軸と人生の軸と

吉沢:すごい興味があったんですけど、安宅さんはキャリアを選ばれる時おそらく前例がないところに進んでリスクを取っていくという事を結構されているかと思うのですが…

 

安宅:まぁ結果論からいうとそうですね(笑)。

基本的に何が起こるかわからない方を選ぼうとしてますね。確変度が高いほうが楽しい。

 

吉沢:僕も仕事を選ぶときに、仮説をたてて、あるものを捨てていくという前提で選んでいる。選択肢が来るたびに、リスクが高いと感じる方をとり続けていけば、必然的に次へ次へと取れる幅が拡がっていくというサイクルを意識しているかもしれません。

 

安宅:それって生きるスタンスですよね。そういう人って、日常生活でもそうだと思うんですよね。たとえしくじってもいいから、わけわかんない道に行ってみるという発想があるのかと思います。

 

吉沢:まさに(笑)。ただ、あんまりそれやり過ぎると、蓄積ができず、何者にもなれないで終わるのではないか・・・と感じることはありませんか?

 

安宅:成功を目的にしている段階で、失敗してると思います(笑)。楽しければいいんじゃないかと。ニュースでたまに目にしたりしますが、あちゃあという失態をしてしまう人の多くは、成功しか目的にしか出来なかったんだと思いますよ。それでは、人生不幸ですよね。キツイと思います。だからあんな感じで心がずれちゃうのかなぁと。

 

吉沢:安宅さん的な『幸福の軸』って、どのあたりですか?

 

安宅:基本、単純な快楽とかではない本当の意味で楽しければいいなぁ、と思ってます。人間は考える頭より知覚する肌の方が賢いので、感じることをベースに生きてます。生々しく感じる部分を信じてジャッジしています。僕の好きな人達は、結局そういう人たちだと思います。人がどうこうよりも、自分の感じるものを大切にしている人かと。

 

吉沢:あれ、てっきり安宅さんの大切にする軸は、『イシューを設定する』っていうことだとばっかり思ってました(笑)。

 

安宅:それは結局答えを出すためだけの話で、別軸の話(笑)。
知的生産を行うってことはイシューにケリをつけることだってだけの話で。人生って、知的生産ですらない。

『アンタは何にケリをつけるために生きてるんだ?』

って言われても、何かピンとこないですよね。

『ハッピーでいいんじゃないの?』

って思います。あなたの人生はいつから知的生産になったんですか、って僕は逆に聞きたいです。確かに人生においては、あとから振り返れば、これが大きな分岐点だったというところが何回か出てくると思いますが、その多くは偶然であったり、人の縁だったりするわけで、コントロールしようがないケースが多い。

 

吉沢:安宅さんが本を書いたのは、自分の幸せの一番の軸として本を出したのではないと?

 

安宅:全く別の位置づけで。フラッとブログに書いたら、想像をこえる反応があってという感じで…数多く『書いていただけないか』というお声をいただきました。

「ここは頑張って書かないといけないのかなぁ・・・」と言う感じで書いた感じです。(笑)

当時仕事がかなり大変な局面だったこともあり、何度も、筆を折ろうと思いました。僕は十分満たされていると思っていましたし、激しく有名になる欲求が特段強かったわけではなかったわけです。『世の中の為に書きましょう』と言われ、書いた感じです(笑)

結果、これを出して一番喜んで頂いたのは、僕が本来想定していた通り、研究者の方々でした。これ、ビジネスパーソンに読まれてる事自体、何か不思議で…純粋に知的生産を行う人向けの本です。もともと。

 

直観とロジックの程よい関係

吉沢:僕、ビジネスを初めて最初苦しんだのは、大学院まで研究でやってきた「現象をロジックとモデル化によって説明できる」という普遍性を見つけ出すという試行錯誤が、中々上手く行かないっていう点だったんですよね。頭を使って使って、実験的なことを色々取り組んで、そこから普遍法則を見つけ出したくなる性分なんですが、これがビジネスで中々見つからない、あてはまらない・・・。

本の中にも紹介していますが、とにかく最初に出てくるYahoo!出身の堀江さんが、直観派なんですよね。彼が打つ施策だったりが、ズバズバ当たるのって、なんだかある意味、とても悔しかったですね。こう、徹底的な理論の前で野生に負けるという・・・

 

安宅:あたりまえじゃないっすか(笑) 富山県出身ですか、この人(堀江さん)。僕と同郷じゃないですか。素晴らしい。これだけで、この人はいい人ですよ(笑)。

 

吉沢:美味しい魚を(富山で)、いっぱい食べていたと聞いてます。

 

安宅:僕も地元の釣りの会の会長の息子ですから。釣りだけは英才教育を受けていて、いやになるくらい無限に釣りをしてきました。

 

吉沢:実はウチ、漁業組合の元締めの家系なんですよ。釣りって、感性というのがある一方で、あーだこうだ、試行錯誤色々と考えません?

 

安宅:なんか通じるものを感じますね(笑)

たしかに色々相当考えますが、ただ実際には、魚の多そうなポイントを知る、潮を意識する、仕掛けを工夫する、くらいしか出来ないですよね。子供の頃(家の)裏の海で釣りばかりしてましたが、魚の行動については分かんないことが多すぎて、釣りの要諦については良く分からなかったです。

 

吉沢:そういう意味だと、僕がやっていた川釣りは変数が少ないんですよ。なんか地元の釣り好きおじさんがやたら釣るのが悔しくて、それに打ち勝つために日々研究した結果、「川岸にある人の残したものを食べる習性がここの川の魚にはある」というのを発見し、川岸から30センチくらいの、目に見える場所に餌を投げ込んで待つ、という作戦を編み出し、これでこのおじさんに勝てるようになったということが・・・。

それがある意味成功体験で、いまの仕事の原型になっていますね。

とはいえ、最近は段々、理論で考えぬくというより、感覚や経験をベースにする部分が増えてきちゃってるな、と、安宅さんのブログなどを拝見していると感じるのですが・・・

 

安宅:何か課題に向かい合うとき、本質は抑えないといけないが、そこにはセンスがあると思っています。僕は比較的感覚側が強い人で、そっちが圧倒的に先行するが、論理的風に説明する能力もある程度、得意なわけですよ。

だから、なんだか分かんないうちにすごそうに聞こえてやっちゃうという。わりと「パッ」て思いつく打ち手が、結構合ってるんですよね。

サイエンス、ビジネス両方の経験から学んだこと、感じて実践している中から、わりと他の人に理解していただけるのではと思ったものを並べてあるのがこの本『イシューからはじめよ』なんですよね。言われてみると、たしかにそうかなぁと思うようなことが書いてある。僕が弟子たちに語っているようなことが、なんとなく書いてあるという感じですね。色々コメントを頂いたりして、編集から(書いてあることが)わからないと言われるたびにやめようと思いながら(笑)、書き上げた本なんです。

 

吉沢:それで行くと、イシューの本を読んだことによって、「安宅さんが言っているからいいんだ、だからあとは頑張ってみよう」という雑音を取り払うような効果があったんじゃないですかね。いかにノイズを減らして、集中出来るかどうかが、仕事のパフォーマンスという面では大事かと。方法論の時点で迷って、内容に集中できないというのを、あの本は防いでくれている側面がある気がします。同じこと、ノイズを減らすということで言えば、プライベートをしっかり固めておくというのも、結果的に仕事に没頭する上でとても大切だな、というのがこのチャートに示した通りです(チャートのポイント④)。

個人の強みサイクル

 

仕事で限界を超えること、仕事とプライベートとの関係のこと

安宅:僕、こういうコンサル現場でよく見る的なぐるぐるチャートを見ると、全部嘘っぽく見えてしまって…(笑)、ですが、個々に書かれていることはそうだなぁと思うところが多いですね。

 

吉沢:(笑)。ありがとうございます。そこでいくと、このポイント③はどうですか?

ある程度ストッパーやら不可がかかるようになってないと、死んでしまうというか…

 

安宅:1回ぐらいは(比喩的な意味で)死んでいいんじゃないんすかね?(笑)

死んでみないと、限界が分かんないというか、ストレッチすることで限界が伸びたりするんですよね。自分がどこで壊れるかとかを知っていたほうがいいですよね。僕ちなみに、若かった頃、夢の中で臨死体験をしたことがあって、それから土日休むようにしました。当時、年360日労働みたいなことをしてたんですが。でも、リミッターなのかどうなれば自分が破壊されるのかは、知っておくべきですよね。そうしないと、壊れて、楽しくなくなっちゃいますよね。

 

吉沢:壊れる体験って、必要なんですかね?

 

安宅:そこから逃げ出した体験が必要なんじゃないですかね。ダウンする前に、逃げないといけないですよね。

 

吉沢:さっきのポイント(プライベート)と併せて考えると、仕事でのハードなモードと、プライベートで嫁さんや家族とゆったり過ごすときと、その2つのモードの切り替えって、安宅さんはどんな感じですか?個人的には、この2つのモードの落差が大きいので、けっこうしんどいときがあったりもします・・・

 

安宅:僕も切り替わっているのでしょうね…。でも僕、ほとんど自然体なんで、相手に順応しているといったほうがいいかもしれませんね。

会社では、会社の人に順応しているという感じですね。その目の前にいる人の痒いところをかいている感じ。そうすると、掻いてあげた結果、喜ばれるのを見ると、生きててよかったなぁと思いますね。

「なんか〇〇をやりたいんですよねぇ・・・」とかいう感じで言われると、大体「やった方がいいですよ」って言うと思います。よっぽどおかしいことじゃない限り。でも、筋違いだとか、明らかに何かを見落としてる時は、言いますけどね。論点の整理や分析の設計というものは、僕にとって呼吸と同じくらい日常的なことなので、条件反射みたいなものです。むしろ心のはだけ、みたいなものはちゃんと耳を傾けるようにしています。

 

安宅さんが内で秘めていること、まだ世の中に発せられていないこと

吉沢:安宅さんは、直感が強くて、かつ自分自身でそれをロジックでまとめることができるじゃないですか。逆に、安宅さんとセットになって、補完関係にあり、さらに安宅さん自身が活きるような人ってどんな人ですか?

 

安宅:まぁ楽しい人ですねぇ(笑)。ポンポンポンと盛り上がっていくような。これは本当にシナジー感じますよね。多少お互いに話がズレても、建設的なんでしょうね。それと僕が思っていないことをいう人が好きですね。何だそれ?みたいな。

 

吉沢:あ、じゃあ、ちょっと安宅さんが思ってないことを言ってみましょうか?(笑)

 

吉沢:東京糸井重里事務所の篠田さんと最近、「内向性」の話題で取材をさせてもらいました。「Quiet」という本も流行ったんですが。人間の内気とは別に内向性・外向性が強いという違いがあるんですよ。

 

吉沢:内向性の高い人は、刺激に対する扁桃体の感度が高くなっているんですよね。段々とセールスマンという仕事が出て来ると、外向的でセールスが出来る人が優秀であるという感が強くなり、結果会社が人を採るときも「コミュニケーション能力」を重視するような世の中になってしまっているんですよね。その結果、内向的な人間が生きづらくなってきている。

このテーマの記事は、いつも反響が大きく、世の中でもそのあたりを実感している人が多いんじゃないかと思います。

 

安宅:感じやすい人と、感じにくい人との違いというと、「何を?」というのが大切だと思います。自分の危機意識を感じやすいかどうかという点で、というのであれば似ていると思います。

ちなみにアミグダラ(amygdala, 扁桃体)っていうのは、ハッピーさというより恐怖のブースターなんですよね。この機能が強い弱いという違いは、人によってあると思います。僕は、人とのインタラクションは発想のトリガー(刺激の元)としてはそれほど重要ではないタイプなので、自分の感じている事以外に、インタラクションはそれほど必要ないんですが。

 

吉沢:そうすると、よくお仕事でサービス開発のためのインタビュー調査などをされているかと思うのですが、そのインタビューは、どんなものとして安宅さんは捉えているんですか?ある種の『観察行為』なんですか?

 

安宅:完全にオブザベーションですね。観察です。全身で感じるような感じですね。わりと左脳的な事は言わないようにしています。そういうアホな事は言わないようにしようねと(笑)。シロかクロかみたいなのはやめようね、もっとこう立体的に捉えようねって、これらを一緒にやるチームの人に言っています。

 

吉沢:本『イシューからはじめよ』を書く時、本当、苦労したんじゃないですか?

(一同爆笑)

本にまとめるには、イチゼロにまとめないといけないような感覚もあるかと思うんですよね。

 

安宅:言い切れないものを言い切るのはよくないと思っています。見えないなら見えないなりに、そこのエッジ、境界が知りたいんであって、無理して言い切るのは正しい自然の見方じゃないと思うんです。

 

吉沢:そういう意味では、ブログを開設されて、その書きぶりの変化についてはどうですか?ブログを書いていると、厳密に白黒で分かり易くかかなきゃいけないんじゃないかとか、仮説提示のスタンスをちゃんと明確にしとかなきゃいけないんじゃないかとか、何かとその『シロとクロ』のスタンスとの関係を試行錯誤することが多かったのではないかと思うんですが。

 

安宅:あんまり内省してないので分からないですが、最初は反応、つまりフィードバックが少なくて苦労しました。でも、(ブログを書くのを知り合いに)約束しちゃったしなぁ…という感じで(笑)。

僕としてはすごく意味のあるモノを書いてるつもりだったんですが、あんまり反応ないしみたいなこともあれば、これが反響が大きいんだ・・・って意外なこともあり。『僕はズレてんのかなぁ世の中と?』って。

 

吉沢:それを、今はどんな感じ何ですか?

 

安宅:僕、段々世の中に言って価値のあるもの、ないものが分かってきて。吐き出さないと気持ち悪い物は書くみたいな感じです。これを言っても受け手はいないと思ったら、飲み込んで終わりますね。

 

吉沢:僕は、バズらせることに関してすごくやりがいを感じてます。脊髄反射的な反応が欲しいんじゃなくて、自分がモヤモヤ思っていること、知的に面白くて仕方のない話などが、手段としてバズって、結果的に多くの人と、このもやもや感とか、知的おもしろさが拡がったら、いいなあ・・・と。

 

安宅:そういう意味でいけば、僕はバズりに対しての情熱が足りてないんだろうなぁ…(笑)。違う本を書くって言ってもあんまりね…

 

吉沢:正直、ブログのほうが(更に!)いいこと書いてある気がしますよ。安宅さんが本質的に好きな話(アマゾン川での釣りと、そのリアルで感じたことなど)だったり、モヤモヤだったりを形にしてみてはいかがですかね? なんて、編集者じゃないですが、口説いてみたり(笑)

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安宅:せっかく吉沢さんに盛り上げて頂いたので、考えてみますね。(笑)

 

吉沢:あっという間でしたね・・・ありがとうございましたm(__)m

 


というわけで、超ご多忙にも関わらず一時間以上じっくりと安宅さんとお話をさせていただき、そのアッケラカンとしたお人柄と、じわっとにじみ出てくる知性に、すっかり酔いしれ、楽しませていただきました。

みなさんの中には、特にどのあたりが響きましたでしょうか?

それでは

 

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