ロンドンビジネススクール教授のリンダ・グラットン著「Work Shift」、元Wired誌編集長クリス・アンダーソン著「Makers」。

 

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昨今、大きな反響を呼んだこの2冊が共通して取り扱うのが、「未来の働き方はどのようになるのか?」というテーマです。

 

そこには、技術革新や社会・エネルギー・文化・人口動態の変化など様々な要因によって、受け止めようによっては現在の企業の存在が全否定される可能性すらあるような、ドラスティックな未来が記されています。

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そこで本記事では、この2冊の示唆する内容をベースに、実際にどのようなことが我々の身近で起こりえるのか、どのような未来を出現させたいかについて、約80名の起業家・企業の事業系・企画系、金融機関、デザイナー、学生、プログラマー、ベンチャー経営者、起業家、NPO関係の方々、弁護士、行政、等々の多様なメンバーを集め、議論した内容を基に、

 

「オタク的密集集団×社会的交流の場」

 

という、1つの可能性を示唆しています。

 

本編の構成です【読了7分】:

 

1.過去→現在→未来の基本的な社会構造変化とは?

2.未来の基本は互いに引き寄せ合う「オタク的密集集団」

3.「オタク的密集集団」が実現する「没頭」と「強いつながり」

4.「オタク的集団」を補完する「社会的交流の場」

5.「社会的交流の場」は「Deep listening」と「共感」で価値を発揮する

6.「感情をどう取り扱うか」が重要になる時代

7.個人と社会が近づく「自分探し2.0」

8.未来の思考と行動のプロセス

9.未来の幸福の軸

 

それでは、本編です

1.過去→現在→未来の基本的な社会構造変化とは?

過去→現在→未来での個人と集団の構造の変化

図 :過去→現在→未来の社会構造変化

未来へのシフトを考える上で重要になるのが、社会構造の変遷です。過去は、多くの人達が村落という1つの場所に集まり、そこで食料の確保・生産・家族の拡大などを全てまかない、村落を超えた交流は、極めて限定的でした。

 

それが、工業が発展し、多くの資本を集め、大量のヒト・モノ・カネを集中的に特定の目的のために投下し、高い生産性を上げるという仕組みが発展する過程で、企業がその枠組の中に人材を囲い、その内部でのやり取りを中心としてきたのが、現在の社会構造の原型です。

 

そして、今回の議論の中心的な話題になったのは、ここから変遷しつつある「未来」の社会構造です。

「未来」は、「オタク的密集集団」と「社会的交流の場」の組み合わせによって構成されていくのではないかというのが、今回の議論での1つのポイントでした。

2.未来の基本は互いに引き寄せ合う「オタク的密集集団」

「未来」では、社会的に互いの興味関心を、ソーシャルメディアやウェブサイトで表現し、その場で互いに自分の好きなこと、本当に熱意を傾けて取り組みたいことをテーマとして表出していきます。

その結果、特定のテーマについて熱く語り合うことができる同士、同じ価値観を持ち、とことん熱中して何かに打ち込めるもの同士が、加速度的に互いに集まります。

 

そして、様々な環境要因の変化が、こうした「未来」の営みを後押しします。「Work Shift」や「Makers」で提示されている変化になぞらえれば:

 

・ソーシャルメディアの台頭:個人名で好きなこと、興味関心を提示する習慣とネットワークが発達していく

 

・情報のデジタル化:自分が試作したものをデジタル情報で公開すると、他の人はそれを閲覧するだけでなく「編集」「改造」することで、自分の力量や技能を示すことができるようになっていく

 

・新興国での労働力台頭&技術進歩による単純労働の減少:単純労働が、新興国や技術でどんどん削減されると、自分とタイプが異なる人、違う地域にいる人と連携して、多様性を活かしてよりイノベーティブな仕事をしなくては、価値が発揮できないという風潮が高まっていく

 

などなど、枚挙にいとまがありません。

特にポイントとなるのは、以前は企業という固定的な枠組みで、そこに人・モノ・カネを集めなければならなかった要素の多くが、技術などの変化によって、必ずしも必要でなくなり、こうした「互いに興味関心を持っているモノ同士」が引き寄せ合って、あらたな集団をつくり、生産的な活動に従事するようになる点です。

3.「オタク的密集集団」が実現する「没頭」と「強いつながり」

この「オタク的密集集団」が、現在の企業という集団と決定的に違うのは、それが「互いに引き付け合うもの同士で形成されている」という点です。

 

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図 :オタク的密集集団は互いが引き寄せ合って構成される

 

これは、企業のように枠組みがあり、そこに様々な人が放り込まれているという構造とは対象的です。いわば、「本当に興味・関心があり、相手と一緒に何かをしたい同士が引き寄せあい、仕事をする」という、これ以上なく強く、そして心理的なつながりの深い集団が形成されることになります。

 

そして、この集団は、自分たちが引き寄せ合う軸となっている特定の「テーマ」によって形成されているため、日々の活動で取り組む内容は、まさに構成メンバー一人ひとりが、「お金をもらわずとも、放っておいてもいくらでも没頭できる、大好きなこと」となります。この「時間を忘れて没頭する」という仕事は、アメリカの心理学者ミハエル・チクセントミハイが提唱する「フロー状態」そのものとなります。

 

こうして、「強いつながりのある人同士」が「没頭して」仕事に臨むというのは、これ以上ない情熱と楽しさ、成長、そして高い生産性と創造性を発揮することになります。

 

「今回の学びとして、イノベーションは多様性から生まれるというのではなく、少数の同質的なオタク集団から生まれるという話がありました。戦艦ヤマトやアップルなど、多様性ではなくオタク達が篭って作り上げたものが実は凄いものになっていた。」(30代 ベンチャー企業事業部長)

 

といった声が、会場からもありました。

4.「オタク的集団」を補完する「社会的交流の場」

ですが、こうした「オタク的集団の集積」には、孤立化し、個別化し、互いにその外に出なくなってしまうという、致命的なリスクがあります。

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図 :オタク的密集集団は「閉じこもる」

こうした現象は、アメリカでのベストセラー「閉じこもるインターネット」などの書籍でも指摘されています。

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この「閉じこもり」は、内部にいる人同士の中で常識的なことが、所属する集団によってあまりに違うということに結びつき、国家などの、より大きな枠組みでの意思決定を難しくし、集団同士の深刻な対立や構想を生む引き金にもなり得ます。

 

例えばですが、先日の参議院議員選挙の際、私たちICJのコミュニティに近い人達は、こぞってFacebookで【投票に参加してきました】というコメントを残しており、「これは、投票率は凄く高いに違いない」という風に感じていても、実際の投票率は、多くのメンバーが在住している東京においても、過去最低を記録していました。

 

こうした、コミュニティ毎の価値観のギャップの拡大や、思考の短絡化を防いでくれるのが、「社会的交流の場」の存在です。

 

社会的交流の場とは、「凡才の集団は孤高の天才に勝る」などの著書でも知られる、Collective Intelligenceの専門家であるキース・ソーヤ氏が提唱する概念です。

 

「優れたアイデアや概念は、それを生み出した個人や、身近なコミュニティの中だけでは、優れているかどうかなどは分からず、それは、多様なメンバーが集まり、自由闊達な会話を通して、互いのテーマや考えを交換し合う“社会的交流の場”によってのみ明らかになる」

 

と、キース・ソーヤは指摘します。

 

そして、この「社会的交流の場」に、多種多様な「オタク的」コミュニティから人々が出てきて、自由闊達に会話を楽しみ、互いにその会話から生み出される新たな観点を交換し合うことで、それぞれのコミュニティ、もといオタク的集団が熟成してきた内容は交換されあい、新たなアイデアと共に、より大きな視点、観点が産み出され、「閉じこもるインターネット」が指摘するような危機的状況は、転じて大いなる刺激と楽しさの源泉となります。

 

5.「社会的交流の場」は「Deep listening」と「共感」で価値を発揮する

実際に多様性溢れる人がリアルに自由闊達な会話をする状況は、一筋縄ではいきません。元々、引き寄せ合わなかった人たち同士が集う場ですので、興味・関心も異なれば、ちょっとした雰囲気(例えば服装やセンスなど)、喋り方の特徴(快活か?理論的か?などなど)、などなど、およそ交流しあうために大変な障害だらけです。

 

この障害をクリアしてくれそうなのが、「安心感」がスタートラインとなる、以下のステップです。

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図 :多様性ある者同士が繋がるためのステップ

まず、互いに何か利害が直接関わるような状況・場面設定ではなく、「純粋に、他のことをやっている人、自分とは違うタイプの人たちと会話を楽しみたい」というような目的で開催された場と、会話をするためのちょっとした雰囲気や進行などの気配りによって、参加者同士が、肩肘張ったり、自己主張をしたりする必要のない場面設定、すなわち「安全な場」を設定してみます。

 

すると、参加者同士は、互いに

「あなたはどんなことに情熱を感じているんですか?」

「あなたが心から追い求めたいテーマとは、なんですか?」

「どうして、それがご自分のテーマになったんですか?」

といったような、日々の会話ではあまり行わない質問を交わし合う割合が増えます。

これが、Deep listeningと呼ばれるものです。

 

そして、このDeep listeningを丁寧に行うと、お互いに相手がどうしてそういうことを考えていて、その背景にはどんな経験や過去の試行錯誤があったかなどが解るようになり、「もし自分が相手だったら、きっとそういう風に思うんだろうなあ・・・」という、“追体験”ができるようになりやすくなる傾向にあります。

 

この「追体験」こそが、互いが互いを「共感」しあうことにつながり、そこには自分と全く異なったテーマや情熱を持っている相手に対する「強いつながり」を感じるようになるきっかけとなりうるようです。

 

多様性は、争いや緊迫した場面、互いが利害で対立するような場面においては、大いなる悲劇や対立・衝突を産み出します。

 

ですが、こうした「安全な場」を基点とする「社会的交流の場」では、まるで自分が自分とは違った価値観や観点を身につけ、世の中を多角的に、そして全体的に捉えられるかのような「世界がつながった感覚」を得ることができるようになるのではないでしょうか。

 

今回の議論の場である「Dialogue Night」というイベントでは、こうした「社会的交流の場」を忠実に設計しましたが、参加した方々からも、「社会的交流の場」を通した「つながった感覚」に関する、多くの感想が寄せられました。

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「Dialogue Nightで、自分が目指す方向性について話す機会を得て、そこに共感する人が、男女、バックグラウンド、年齢に関わらず、少なからずいることを改めて確認できました」(30代 女性起業家)

「アウトプットすることで共感を得て、仲間や支援者が集まるという雰囲気を味わった」(30代 大手人材関連企業勤務)

「様々な立場、背景の方と話をし、分野が違っていても共有できる価値があることを実感でき、僕自身がこれまで取り組んできたコミュニティデザインという領域がより広いものとして捉えられるという気づきが得られました」(30代 男性 会社員)

日ごろ考えていることを共有し、”このようなことですか?”と確認し合いながら、会話を進められるプロセスは、本当に大切なコミュニケーションと思いました。」(30代 女性 会社員)

「いつも出会わない方にであえて、その方々の視点を頂けたことで、新たなきづきと妄想がひろがりました。」(30代 女性 医師)

「フラット・オープンな人が集まり、かつ、適切なファシリテーションがあれば、初対面であっても、たとえ抽象的な事柄であっても、人は前向きに、積極的に語り合えるということを発見しました。」(20代 男性 公務員)

「自らのコミュニティでタコツボ化してしまっている場合も多く、ワールド・カフェのように、コミュニティ間の横のつながりを強くしていくことで、社会全体が変わっていくのではと感じた」(20代 女性 NPO勤務)

6.「感情をどう取り扱うか」が重要になる時代

このように、互いが互いを追体験し、共感しあった、「多様性溢れる人たち」の集団は、互いに相手の「感情」を理解し、それによってつながるという場合が多くなります。

 

言い換えると、互いに、

 

「自分とは違うけれど、なるほど彼があのテーマがあれだけ好きで、心から熱中するのは、よくわかった!」

「彼女が、日本に来訪する海外の人たちが不自由な思いをするのを、本当に悲しく思っていて、それをなんとかしたいと感じているのは、彼女が過去にしてきた経験を考えると、最もなことだ」

 

というように、個人個人の背景や価値観との掛けあわせによって、取り組んでいるテーマに対して、どのような感情・気持ちを抱いているのかを、理解し合うことでつながっていったりします。

 

こうした、「感情」を互いに理解したり、ストレートにその気持ちそのものを表現し合ったりすることは、現在の企業における仕事では、敬遠され、取り組まれてきませんでした。

 

「僕は、このプロジェクトがあまり好きでない。なぜならば・・・」といったことは、仕事に対するプロフェッショナリズムが欠けている、幼稚な行為である、という風にみなされ、いわゆる【客観的な事実】に基づいた分析や判断が重視され、個人個人が持つ背景や、それによるテーマに対する捉え方、感情は、あまり取り組まれてきませんでした。

 

ですが、上記のように、好きなテーマで引き寄せあった「オタク的密集集団」と、それを補完する「社会的交流の場」でのやり取りが活性化し、互いに連携しあうためには、今度はこの「感情」の取り扱い方こそ、未来のマネジメントにとって何より重要な観点なのかもしれません。

 

今回の議論の中でも、

 

「私なりの未来に対する理解は、テクノロジーの進化により、従来表に出なかったはずの思考や感情のディテールが表に発露し、これまで以上に感情のマネジメントが重要になる時代と認識しています」(30代 男性 企業再生支援)

 

という指摘があった通り、ソーシャルメディアの技術的・インフラ的な発展や、そうした場面で自分自身の感情をオープンにすることに熟達した世代が育っていく中で、「感情」が占める重要性は、否応なしに高まっていくのかもしれません。

7.個人と社会が近づく「自分探し2.0」

こうして、互いが互いの背景や価値観を理解し合い、互いの「感情」に対して深い理解と観点を持つようになっていくと、世の中を多くの観点で観られることがわかってきました。

その結果、自分自身についても、他の人からのインプットや、自分が得た他の人の観点を通して再確認する自分自身を通して、「本当の自分の姿」や、「自分が取り組もうとしているテーマが持つ、社会との関係、価値」といったものが、解像度高く理解できるようになっていきます。

 

今回の議論の中では、

 

他人の思考を知ることで、自分を知ることが、一番大きな発見でした」(30代 男性)

「どんな未来が訪れるかという漠然としたテーマでしたが、事前に知識共有するためのプレゼンテーションを踏まえてなお、参加者それぞれの現状認識やビジョンが多様であることはとても興味深く、自分がなぜそのような考えに至ったのか改めて考える良い場でした。」(30代 男性 ゲームメーカー)

「異業種の方々とお話しをすることで自己を相対化出来ました。また、異分野融合、イノベーションのきっかけが生まれると思いますので、大変有り難い機会でした。」(30代 男性 医師)

「みんなの意見を合わせれば相互に関係している分野、テクノロジーが合わさり『こんな未来が待っているのではないか?!』という大まかなイメージが掴めました。その中で、自分自身のテーマは方向性としては正しいが、どのように、何のツールをもって世界へ出るかという点を再考させられました」(30代 男性 メーカー勤務)

「異なるテーマで、同様の課題を抱えていらっしゃる方と話すことができ、方向性が正しいこと信じることができ、具体的にどのようにやっていくかイメージを持つことができました」(30代 男性 ネットマーケティング)

「盛り上がる議論の中に自分を投じることができた。話すことで自分の思考の確認もでき、また日常的に合わない世界の人たちの考えを聞くことで、その思考がブラッシュアップできた」(30代 男性 研究者)

「フラットな意見の多様性に触れられたことはとても嬉しかった。と、同時に議論を構築するための自分の深みや広さが足りないこともわかってよかった。」(30代 女性)

「専門分野に限定していたものを、広げるきっかけになりました。今、そしてこれから社会で起こる問題は、狭い分野で発想しても本質的な解決につながらないのではないか、と思えたのです。いろいろな立場の方との対話の中から、自らの発想の狭さに気づいたのがきっかけです。」(40代 男性 金融関係)

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といったように、普段会わないような人と、互いに自分のテーマや考えを提示することで、自分の考えの位置づけが分かったり、世界に対する捉え方が変わったりする機会が、数多く生まれていたようです。

 

このように、互いに深く共感し、多様性溢れる中で語り合うことでじわっと見えてくる自分のテーマの位置づけ、自分自身の行うべきこと、自分が本当にやりたいと思うことといった要素こそ、本当の意味での自分の姿であるかもしれません。これを今回は「自分探し2.0」と命名したいと思います。

 

「自分探し1.0」とは、自分自身の過去や経緯、これまでの営みを自分で書きだしたり、瞑想を行ったりすることで「自分」→「自分」という中で行うものだとすれば、この「社会的交流の場」によって、互いに共感し合い、語り合うことで浮かび上がる「自分探し2.0」は、深めれば深めるほど、「個人と社会がぐっと近づいてくる」という特長を持っているのではないでしょうか。

 

「(出現しつつある未来は)個人の幸福の追求が、ひいては社会全体の幸福の追求と重なる世界。今はまだ、「個人」と「社会」の距離が離れているので、そこを近づけることが自分のテーマ。」(30代 男性)

8.未来の思考と行動のプロセス

ここまで見てきたように、今回のDialogue Nightのような「社会的交流の場」は、その場ではひたすら「思考の発散」が行われていきます。

 

では、未来において、「社会的交流の場」で行われた「思考の発散」は、どのようにして、「思考の収束」「アクション」といったところへ繋がっていくのでしょうか?

 

「発散していくディスカッションだったので、一度収束をさせて、深く考えてみたい気もします。」(30代 女性)

「(Dialogue Nightのような社会的交流の場における)ダイアログはかなりの勢いで浸透している。あとはそこからどう動くか、だ。」(30代 男性 金融機関)

 

という、Dialogue Night参加者の気持ちは、最もだと思います。

 

ここでは、この「思考法」に関して、今回行われた議論を紹介致します。

 

まず、現在における典型的な思考法は、下記のような流れではないでしょうか。

 

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この流れの中で、「客観的な判断軸を元に、論理的な思考によって最も優れた選択肢を採択する」という方法をとっており、この部分の進め方や、論理性の高さが全体のパフォーマンスを左右します。

 

これに対して、「オタク的密集集団」と「社会的交流の場」での思考は、以下のようなプロセスでつながり続けるのではないかという議論がありました。

 

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これが未来における思考とアクションの流れ、なのかもしれません。

 

この未来の思考の流れの中では、現在の思考の流れと違い、「特定の個人の論理性」にそれほど頼らないプロセスが続いていきそうです。

 

それに代わって、一連のプロセスの中で、多くの人が、場面によっては「オタク的密集集団」の中で、場面によっては「社会的交流の場」の中で、あるいは、「プロトタイピング」されたものへあれこれとフィードバックを返すという中で関わりながら、徐々に、にじみ出るように、行うべきことが見えてくるという点にあります。

 

プロトタイピングについては、このようなコメントが寄せられています。

 

「プロトタイプがあるからこそ、改善ができ、チャレンジできるものと思います。今回のイベントを通じて、プロトタイプが物作りだけではなく、経験

や場作りにも活かせることを学べたのが、最も大きな発見でした。」(男性 30代 金融機関)

「プロトタイプを創出し、広く呼びかけることの理解が、具体的なケーススタディと解説によって深まったと思う。」(男性 30代 インターネットマーケティング)

「つまり、みんなもモラトリアム延長してるんだから、(プロトタイピングだと捉えて)俺もやってもいいんだ!  成功している方(南さんとか)も、最初っからテーマ決めてたわけじゃない!って言ってるので、  俺もまぁ、今の方向性で進んでみよう!…ってことですね。」(男性 20代 修行中)

 

このように、「未来」では、どのアクションをすべきか、何を取捨選択すべきかという点を、「自分個人」「オタク的密集集団」「社会的交流の場」といった様々な目線や観点を繰り返し行き来し、その中でにじみ出るように行うべきことが見えてくる、収束されていくという点において、「集団的な思考の収束」が存在するといえるかもしれません。

9.未来の幸福の軸

以上のような「未来」についての議論は、最後に「幸福の軸」という観点で締めくくりたいと思います。

 

今回の議論では、

 

「個人の中での幸福感という軸が揺らいでいる、それがお金という価値と必ずしも一致しないという大きな価値観のシフトが、テクノロジーと相まって、今後どのような様相を見せてゆくのか見守りたいと改めて思った。」(30代 女性)

「「幸福の感じ方が変わる」んだと、切に思いました。「幸福感」が「情熱を傾けられる経験」となっていくのであれば、「自分が欲していること(そして、情熱を傾けられること)」を言語化する重要性がでてくるのでは、と思ったり。幸福は与えられるものや満たされるものではなくて、自分で試しながら見つけ、創っていくものになっていくんですね。」(30代 女性 サービス業)

 

など、未来へのシフトを考えるときに、そもそも幸福とは何なのか?について、深く顧みなければならないというコメントが、多く寄せられました。

 

リンダ・グラットンも「WorkShift」の中で指摘するように、これまでの企業の枠組みを中心とした価値観の背景にあるのは、「労働→生産→対価→購入→消費」を軸とする、いわゆる「消費による幸福」がありました。

 

しかし、こうした生産と消費の拡大を軸にした幸福感は、中国やインドを初めとした新興国が成長する中で、地球のキャパシティでは、もはや人類全体を満足させることができないという帰路に立たされています。

 

「インドなど新興国に需要喚起して売っていけば(例えばウオッシュレットなどの)マーケットは拡大するかもしれないが、その便利さは本当に現地に必要なのか?持続可能なのか?」(20代 男性 教育系ベンチャー代表)

 

といった指摘も、まさにこの点を示唆するものです。

 

これに対して、「オタク的密集集団」は、何より「自分自身が心から熱意を以って取り組むことを心ゆくまで取り組むことができる」「本当にやりたいことが同じだという仲間同士で、深い関係を気付くことができる」という幸せを提供してくれます。

 

同時に、「社会的交流の場」におけるやりとりは、自分がそれまで考えていなかったような「驚くべき発見」という刺激を提供してくれたり、「個人が、どんどん社会と近づいていく」という充実感を感じさせてたりしてくれます。

 

現在の社会では、こうした「何が自分にとっての幸せか」という点を、これまで語る機会があまりありませんでした。

 

ですが、「未来」へのシフトの中で新たな社会構造や動き方を模索する中では、こうした「何が自分にとっての幸せか」という質問が、大きな意味を持つようになる、というのが、今回の議論でも大きく取り上げられていました。

 

まさにこれからは「幸福の軸が揺らいでいく」、ということが起きてゆくのではないでしょうか。

 

いかがでしたでしょうか。

 

あなたが思い描いている未来、感じている未来は、この議論を受けて、どのような刺激や影響を受けたでしょうか?

 

それでは


▼この議論に続く今後の記事につきまして

今回の記事でご紹介した「どのような未来が出現しようとしているか?」という議論は、以下の2つの議論へと続きました。

 

「この出現しつつある未来が、現代の抱えるジレンマを際立たせつつあるのでは?」

「望ましい未来を出現させるためには、どのような取り組みが重要になってくるか?」

 

これらの内容については、今後二回の記事に分割し、順次ご紹介していきます。

 

▼この記事のベースとなる議論が展開される「DialogueNight」について

こうした様々な観点を、多様な人々が集い、ざっくばらんに行う「DialogueNight」という集まりは、今後毎月開催される予定です。残念ながら、次回8月21日の開催については既に参加者募集が締切になっておりますが、9月以降のご参加に興味のある方は、ICJのFacebookページに「いいね!」をすることでフォローしていただければ、随時開催情報のチェックが可能です。

ICJのフェイスブックページは、以下のURLよりお願いいたします

http://www.facebook.com/InclusionJapan

 

▼参考資料について

・この議論を行った「第一回DialogueNight」の当日資料ダウンロード: